• 和紙とは
  • 和紙選びの
    大切なポイント
  • 和紙は、楮(こうぞ) 三極(みつまた) 雁皮(がんぴ)という、もともと日本に古くから自生していた落葉低木の靭皮(じんぴ)繊維を主原料として作られてきました。

    現在では、国産原料だけでなく、輸入原料も多く使用されています。製法には、伝統的な技法である“手漉き”のほかに、わが国の近代化にともない誕生した“機械抄き”があり、それぞれがつくりだす紙にも異なる特徴があります。

    このような原料、製法、加工、産地等による違いにより、多種多様な和紙が存在するなか、どの紙が適しているのかは、使い手や用途、求めるものによってそれぞれ異なります。

  • 手漉き、機械抄きの製法や原料のみならず、使用する薬品、乾燥方法など様々な要因が重なり紙の質が決まります。
    信頼のおける正確な情報を元に、保存性や強度などの特性を理解し、場合によってはリスクを鑑みた上で、用途や予算に最も適した種類の和紙を検討するのがよいでしょう。

    Point Ⅰ

    原料に気をつける

    本来、“和紙”という言葉は日本産の靭皮繊維を用い、日本国内で作られた紙を意味しますが、近年では外国産の輸入原料や非靭皮繊維を使用した紙も和紙として一般的に流通しています。
    期待値以下の耐久性や急速なシミなどの劣化症状の現れなどのリスクを回避するために、国産原料と外来原料の特性の違いを知り、用途に合った紙を正しく選定することが重要です。

    和紙と洋紙の違い

    中国から中近東経由でヨーロッパに製紙技術が伝わった時代には、西洋では麻や綿を原料として手漉きで紙が漉かれていました。

    しかし、19世紀の原料の不足に伴い、木材を物理的な方法でパルプ(繊維状物質)化する機械が考案され、20世紀には木材パルプを原料とした機械抄きの紙が大量生産されるようになりました。明治時代に外国から木材パルプを原料とした機械抄きの製紙技術が伝わり、その紙は「洋紙」として認識されました。近年は、日常生活で使用される紙のほとんどは機械抄きの紙です。

    日本国内で古くから伝統技法で生産されてきた和紙と機械で生産される洋紙との大きな違いはその原料です。
    初期の砕木パルプ (GP) を原料とした機械抄き洋紙の難点は、年月を経ると劣化症状が発生しやすいことです。 この劣化の原因は、機械パルプの生産方法では「リグニン」という成分が繊維中に大量に残留していたことです。リグニンは親水性が低く、多量に存在すると繊維の膨潤性が低下し、パルプ叩解処理による繊維のフィブリル化が困難となります。リグニンを多く含有する原料で作られた紙は繊維間結合が劣り、その結果密度が低く強度の低いものとなります。リグニンは酸化しやすく、光(紫外線)によって化学変化を起こしさらに酸化が加速されるため、リグニンを多く含むパルプを利用した紙ほど退色(黄ばみ・変色)や強度劣化しやすくなります。19世紀中頃の西洋で、機械パルプを原料とした紙を用いて作られた書物の多くは、現在では修復が困難な程に劣化しています。
    近年は、リグニンを除去する処理を施したセルロース純度の高い化学パルプ (CP) の生産が主流になっています。
    そのため、機械パルプを原料にした中・下級紙に比べ、化学パルプを原料としている上質紙は以前ほどの劣化が見られなくなりました。しかし、木材パルプを原料とする紙には漂白剤の残存の問題などもあり、経年劣化しやすいという難点が依然として残ります。

    一方、日本の和紙の原料である楮や雁皮などの靭皮繊維は、もともとリグニンの含有量が少ない(靭皮繊維・白皮4.0-4.5%、針葉樹25-35%、広葉樹20-25%)という利点があります。そして、草木を焼いた灰を水に浸して得る灰汁やソーダ灰(炭酸ナトリウム)のアルカリ性溶液で原料を煮熟(しゃじゅく)し、少量のリグニンやペクチン質などの物質を取り除き、原料処理を行って紙に必要なセルロース繊維を取り出します。 アルカリ性物質でも、自然素材の灰汁や化学薬品でもソーダ灰は比較的繊維を傷めずに煮熟工程を行えます。また、和紙の抄造の際には植物性粘質物の粘滑液「ネリ」を使用し、紙層の繊維が良く絡み合うことで、強い紙が作られます。

    このように和紙と洋紙とで主に原料の違いがありますが、厚い紙をつくる場合靭皮繊維だけでは原材料費が高くなってしまう為、価格を抑えるために木材パルプを配合する紙もあり、現代においては用途によって要件を満たす場合もあります。

    国産原料と輸入原料

    国産の和紙は通常、楮、三椏、雁皮などの靭皮繊維から作られますが、近年では外国産原料の使用量も増えています。
    輸入原料として代表的なのは、タイ・ラオス産の通称タイ楮、フィリピン産のフィリピン雁皮(サラゴ)やマニラ麻(アバカ)、中国やネパール産の三椏などです(木材パルプや化学繊維も一部の紙で使用されます)。和紙の品質を見極めるために、国産か外国産の原料なのか知ることが大切です。しかし、例として、本来は国産楮で漉かれている「典具帖紙」ですが、このごろではマニラ麻を用いたものもあり、名前だけでは判断し難くなっているので、成分表などで情報を確認することが理想です。外国産の原料以外にも、国産の原料で過度に漂白され塩素臭のする楮繊維が使われることが増えてきました。
    元来の伝統的手法で製造された和紙が少なくなってきた現在、たとえ国産原料を使用した和紙であっても全ての和紙の保存性が良いとはいえない状況であります。新たな技術、原料、多用な種類や用途が混在する中、「和紙」の定義が曖昧な状態の今日和紙の購入の際には、原料や製造工程等の情報や適切なアドバイスを提供出来る信頼のおける和紙専門店を利用することが大切です。

    Point Ⅱ

    使用されている薬品に気をつける

    和紙を選ぶ際に、製紙工程で使用されている薬品と使用量、および最終的な紙のpH値等の情報が、和紙の品質を見極めるのに参考になります。
    和紙の原料から不溶性の不純物を除去する際にアルカリ性の溶液を使用する必要がありますが、その液の成分や濃度は、製造現場によって異なり、和紙の品質も大きく左右されます。

    天然素材か化学薬品か

    植物を原料とする和紙は、原料の中に含まれている繊維以外の不純物を取り除くために、アルカリ液を使用し不純物を水溶性物質に変える煮熟(しゃじゅく)を行う必要があります。 アルカリ液には植物から得る灰汁や化学薬品を用いたものとものがあります。
    伝統的な和紙の製法では、藁などの草木を燃やした灰を水に浸したときに得られる上澄み(灰汁)が使用されてきましたが、高知が石灰の産地であることから、四国では古くから消石灰(水酸化カルシウム)をアルカリ液用に使用してきました。近代以降、化学薬品を用いたアルカリ液が一般的になっており、化学薬品を用いたアルカリ液としては、ソーダ灰(炭酸ナトリウム)や苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)やなどがあります。それぞれアルカリ濃度及び効力が異なります。

    伝統的な手漉き和紙の製法では、アルカリ濃度の低い灰汁を用いることで、繊維を傷めず長い状態で維持出来ます。
    しかし、その後の楮繊維の中に残留しているゴミや塵を人為で取り除く「ちりとり」の工程に長時間かかります。伝統的な手法が最も素材に優しく丈夫な繊維を生み出し、保存性も高い紙が出来るので最も理想的です。国宝級の文化財の修復にはほとんどがこうした伝統的な製法で作られた紙が使われています。

    一方、苛性ソーダは非常に強い薬品で繊維自体を傷めてしまいますが、ちりとりの工程が短時間で済むあるいは必要がないというメリットがあります。その為、高品質を求められてない用途の紙や外国産の原料の煮熟に使われています。

    ソーダ灰や消石灰などはマイルドなアルカリ性であるため、作用も温和で煮熟による繊維の損傷は少なくなります。
    ソーダ灰は、楮をはじめ、雁皮や三椏の煮熟によく使用されます。

    伝統的に煮熟を終えた靭皮繊維は、すぐに流水の中で灰汁抜きが施されました。
    川の浅瀬で行われる「川晒し」の作業では、可溶物の流出と同時に日光の紫外線の作用で、漂白も行われました。このような環境で行われる自然漂白では繊維の損傷はほとんどありません。

    明治時代以降に化学薬品が販売されるようになってからは、化学薬品を使用しての漂白が一部の紙の製造で行われています。一般的に晒し粉(次亜塩素酸カルシウム)、次亜塩素酸ソーダ、亜塩素酸ソーダなどが漂白剤として使用されています。

    和紙の購入を検討する際には、それぞれの紙の製造情報や用途を考える必要があります。

    pH(ペーハー)値を確認する

    本来、和紙はpH値6.5~7間の「中性紙」です。酸性紙は徐々に酸化が進むため劣化が早いのに対して、中性紙は長期的な保存に適しています。和紙の品質を見極める際には、このpH値を把握しておくことも大切です。

    Point Ⅲ

    乾燥方法に気をつける

    和紙は漉いた後に、余分な水分を除去する為に乾燥させる必要がありますが、その乾燥方法にはいくつか種類があります。
    この乾燥方法の違いによって、和紙の品質が左右されます。和紙の選定の際に、乾燥方法の違いの考慮も大切です。

    伝統的な和紙の製法では、木の板に紙を貼って干す「板干し」の方法が主流でしたが、現在では他にもさまざまな乾燥方法があります。特に、濡れ紙を鉄板に張りつけて熱を加えて乾燥させる鉄板を用いた乾燥方法が近代以降は多くなりましたが、この方法だと微量の鉄分が紙に付着することで鉄分が酸化し、後に染みとなって出てくる可能性が高く、長期の保存には向きません。

    いまでは手すき和紙の工房では鉄板ではなくステンレス製の板を用いる乾燥方法が導入され、この問題は解決されつつありますが、流通している全ての和紙が長期の保存を目的としているわけではないので、依然として鉄板を用いている製造現場もあります。修復には「板干し」かステンレス製の板で乾燥させた和紙の使用が理想であり、その点に気をつけて選定する必要があります。

    伝統的な天日で干す「板干し」の方法は、繊維の収縮も急激に起こらず、素材を無理なくゆっくり乾かすので、より強い和紙になります。人為的な手間はかかりますが、最も長期的な保存に耐える強い和紙が生まれます。ただ、板の種類によっては板目が紙に残ることがあります。

    Point Ⅳ

    手漉きと機械抄きの違いを知る

    和紙の作り方には、昔ながらの人為による手漉きの製法と、機械抄きの製法とがあります。
    一般的に高価で上質とされるのは手漉きの和紙ですが、機械抄きにも常に均一の品質を提供出来るなどのメリットがあります。用途によって、どちらを選ぶのが適切か判断する必要があります。

    機械抄き和紙は、大型の紙抄き機械で連続的に大量生産されるので、全て定められた条件のもとで製造されます。
    そのため、抄紙の幅は決まっているものの切れ目なく抄くことができ、品質的にも比較的安定しているので、大きな作品を作る場合、大量の使用や予算に制限がある場合などに適しています。

    一方、手漉き和紙は、原料の処理の仕方、漉き方が職人によって違いが生じるため、人や地域によって品質が様々であり、それが個々の紙の個性となって現れてきます。
    紙の種類ごとに異なる風合いがあり、用途に合った紙を選んだり、自分好みの産地を探す面白みもあります。
    目的によって手漉きか機械抄きかを選ぶのが良いでしょう。